2025年04月13日
【新刊電子書籍】WISH…/エマージェンシー・アタッカー・シリーズ
WISH…/エマージェンシー・アタッカー・シリーズ
https://amzn.to/44nfDJD
新刊電子書籍発売中。

SFライトノヴェル。
宇宙連邦の公安・警備部隊であるアタッカーの、少女をリーダーとした1チームの活躍を描いたものです。
※本文より。
漆黒の闇が支配する宇宙。
その闇の中に宝石をちりばめたように星々が輝いている。
それはそれで美しい光景だが、もし人類が生まれ進化した母星の環境の中ではなく、宇宙空間で進化していたのなら、さまざまな宇宙線をその目で捉え、漆黒の闇もまばゆい光に満ちた世界として認識していたかもしれない。
大昔の作家がその作品の中でそんなことを書いていたそうだ。当時はロマンティックな想像として受け取られていたのだろう。まだ人類が宇宙にその生活圏を広げる前の話だ。
惑星ブリアールは植民・開発が始まってから六十年を超えていたが特に目立った資源や特産物があるというわけでもなく、地味な星だった。しかし衛星軌道上に造られた宇宙港は巨大でさまざまな星域への中継地点として機能しているのと商業施設、リゾート施設が充実していることから宇宙連邦全域で知られていた。
その宇宙港は大きく左右に分かれる形をしており、ブリアールという惑星が翼を着けているように見えることから「エンジェル・ウィング」と名付けられている。
リゾートエリアには各地からの観光客や乗り継ぎの合間を楽しむ人々で賑わっていた。もっともそこには休暇を楽しむ目的ではなく、仕事で訪れている場合もある。もちろんリゾート施設の従業員ということではなく、そこでしなければならない仕事ができてしまったケースだ。銀河連邦保安部に所属する強攻チーム、俗に「アタッカー」と呼ばれるメンバーも、いま仕事のためにこのリゾート施設に居た。
「アタッカー」は5~7人程度のメンバーで編成されたチームが各星域を担当しているが、時には複数のチームが合同で活動することもある。エンジェル・ウィングのような宇宙港は特にさまざまな星域との連携が必要でもあった。チームとしてはもっとも新しく編成された「Pegasus」のメンバー5人も、リゾート施設のカフェに配置されていた。
「仕事じゃなければゆっくり楽しめたのにねえ」
ブロンドの髪を揺らしながらリリィが愚痴るように言った。それでも青い瞳はカフェの店中を油断なく見ている。
リリィと同じテーブルについて同じように店内を警戒しているのは「Pegasus」の敏腕パイロットであるウルフだが、その視線はサングラスで見えない。スキンヘッドでもあり危険な印象を与えるが口を開くとひょうきんな性格だ。
「せめて任務が終わったあとに1日でも休暇が取れたらね。生憎、仕事は山積みだ」
「せっかく人気のリゾート地に来てるっていうのに…」
リリィがまたぼやく。それに無言で頷くのはやはり同じテーブルに居たタイガだ。ダークブラウンの髪を短く刈り込んだウルフよりもひと回り身体の大きい体育会系の外見だが、細かい作業が得意な器用さがある。
服装は3人ともTPOに合せたものだが、周囲のテーブルの客に比べるとどこか緊張がにじみ出ていて浮いて見えるのは否めない。
「あれじゃ張り込んでるのがバレバレだな」
少し離れたテーブルでコーヒーを口にしながら呟くように言ったのはチームの副リーダーの教授だ。前職が大学で教鞭を取っていたことからこのニックネームで呼ばれている。年齢も20歳代のリリィたち3人と比べてひと回りほど上である。細い金属フレームの眼鏡をかけているが、近視や老眼といったものは医学的に克服されていて、一般的に眼鏡はファッションとして浸透している。
教授の向かい側に座ってテーブルに両肘をつき、顎を手で支えながらつまらなそうな顔をしているのは、腰に届く銀色のストレートの髪、整った顔だち、人類がまだ宇宙に進出する前ならアジア系と呼ばれただろう。そして艶やかな黒い肌、灰色の瞳の少女といった外見の、あやだ。18才の誕生日にはまだ数か月あるが、あやが「Pegasus」チームのリーダーだ。
「いいじゃない、どうせ『Jupiter』チームの手伝いに駆り出されて来てるだけなんだからさ」
「うちのメンバーがヘマをしたら、責任を取らされるのは、あや、君だっていうことはわかってるのかい」
「その時は、わたしがヘマをしたやつに3倍の懲罰をくれてやるわ」
教授はやれやれといった風に口の隅で笑った。
「それに、リリィたちが普通の観光客じゃないように見えても、ターゲットは気づいていないみたいじゃない」
「そうだな。あちらも妙に緊張しすぎているのかもな」
店内の窓際のテーブルに座るひとりの男を視線の隅で捉えながらあやが言うのに教授も応える。男は辺境星域を荒らしている海賊組織の幹部として保安局にマークされている人物で、エンジェル・ウィングには別の組織の大物と接触するらしいとの情報があり、あやたちはその相手が現れるのを待っているのだ。
<こちら『Jupiter』リーダー。『Pegasus』チーム、聞こえるか>
あやの耳の奥で通信装置から声が聞こえる。
<こちら『Pegasus』リーダー。目標はまだ現れない>
<お嬢ちゃんか。情報は確かだ。しっかり見張っていてくれよ>
それだけ言うと通信は切れた。
「それにしてもなんだって直接張り込むなんてこと…監視カメラだってあるのに」
「働いてます、と上にアピールしたいか、単に我々に対する嫌がらせのどちらかだろうね」
あやのつぶやきに教授が冷めた口調で応えてテーブルの上に置いてあったペーパーバックを広げて読むふりをする。
あやはもう一度対象の男を目の隅で観察してみる。
窓から差し込む明るい日差しに白いスーツが清潔感を出している。髪は濃い茶色で短い。眉は太く固く結んだ唇は薄い。ごくありふれた中年男性に見えるが、どこか違和感があるのは普段反社会組織に身を置いているからだろうか。視線はカフェの入り口と窓の外とテーブルの上を短い感覚で行ったり来たりしていた。待ち合わせの相手が時間に遅れているといった印象だ。テーブルには汗をかいたグラスがあり、ほとんど口をつけていないようだった。
「Jupiter」チームはこの男よりも接触してくる相手に興味があるようだ。辺境星域の海賊と接触するのだから、あるいは広域に勢力を持つ組織が傘下に加えようとしているのかもしれない。としたら、保安局の狙いは広域の組織を摘発する足掛かりということか。
カフェの客は回転が速い。あやたち「Pegasus」のメンバーと対象の男以外は8割がたが入れ代わっている。いまも店の入り口は出て行く客と入ってくる客がすれ違っている。客が入ってくるたびに対象の男も注目していたが、いまだに待ち人は現れていない。
またひとり、いやふたり連れの客が入ってきた。教授と同年配の男性と若い女性だ。ラフな服装なのはこのリゾート施設のホテルに宿泊しているからだろう。空いているテーブルを探してカフェの中を歩いてきたその男性は、教授に目をとめると近づいてきて声をかけた。
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なお、表紙画像には生成AI「Dreamina」を使用しました。
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SFライトノヴェル。
宇宙連邦の公安・警備部隊であるアタッカーの、少女をリーダーとした1チームの活躍を描いたものです。
※本文より。
漆黒の闇が支配する宇宙。
その闇の中に宝石をちりばめたように星々が輝いている。
それはそれで美しい光景だが、もし人類が生まれ進化した母星の環境の中ではなく、宇宙空間で進化していたのなら、さまざまな宇宙線をその目で捉え、漆黒の闇もまばゆい光に満ちた世界として認識していたかもしれない。
大昔の作家がその作品の中でそんなことを書いていたそうだ。当時はロマンティックな想像として受け取られていたのだろう。まだ人類が宇宙にその生活圏を広げる前の話だ。
惑星ブリアールは植民・開発が始まってから六十年を超えていたが特に目立った資源や特産物があるというわけでもなく、地味な星だった。しかし衛星軌道上に造られた宇宙港は巨大でさまざまな星域への中継地点として機能しているのと商業施設、リゾート施設が充実していることから宇宙連邦全域で知られていた。
その宇宙港は大きく左右に分かれる形をしており、ブリアールという惑星が翼を着けているように見えることから「エンジェル・ウィング」と名付けられている。
リゾートエリアには各地からの観光客や乗り継ぎの合間を楽しむ人々で賑わっていた。もっともそこには休暇を楽しむ目的ではなく、仕事で訪れている場合もある。もちろんリゾート施設の従業員ということではなく、そこでしなければならない仕事ができてしまったケースだ。銀河連邦保安部に所属する強攻チーム、俗に「アタッカー」と呼ばれるメンバーも、いま仕事のためにこのリゾート施設に居た。
「アタッカー」は5~7人程度のメンバーで編成されたチームが各星域を担当しているが、時には複数のチームが合同で活動することもある。エンジェル・ウィングのような宇宙港は特にさまざまな星域との連携が必要でもあった。チームとしてはもっとも新しく編成された「Pegasus」のメンバー5人も、リゾート施設のカフェに配置されていた。
「仕事じゃなければゆっくり楽しめたのにねえ」
ブロンドの髪を揺らしながらリリィが愚痴るように言った。それでも青い瞳はカフェの店中を油断なく見ている。
リリィと同じテーブルについて同じように店内を警戒しているのは「Pegasus」の敏腕パイロットであるウルフだが、その視線はサングラスで見えない。スキンヘッドでもあり危険な印象を与えるが口を開くとひょうきんな性格だ。
「せめて任務が終わったあとに1日でも休暇が取れたらね。生憎、仕事は山積みだ」
「せっかく人気のリゾート地に来てるっていうのに…」
リリィがまたぼやく。それに無言で頷くのはやはり同じテーブルに居たタイガだ。ダークブラウンの髪を短く刈り込んだウルフよりもひと回り身体の大きい体育会系の外見だが、細かい作業が得意な器用さがある。
服装は3人ともTPOに合せたものだが、周囲のテーブルの客に比べるとどこか緊張がにじみ出ていて浮いて見えるのは否めない。
「あれじゃ張り込んでるのがバレバレだな」
少し離れたテーブルでコーヒーを口にしながら呟くように言ったのはチームの副リーダーの教授だ。前職が大学で教鞭を取っていたことからこのニックネームで呼ばれている。年齢も20歳代のリリィたち3人と比べてひと回りほど上である。細い金属フレームの眼鏡をかけているが、近視や老眼といったものは医学的に克服されていて、一般的に眼鏡はファッションとして浸透している。
教授の向かい側に座ってテーブルに両肘をつき、顎を手で支えながらつまらなそうな顔をしているのは、腰に届く銀色のストレートの髪、整った顔だち、人類がまだ宇宙に進出する前ならアジア系と呼ばれただろう。そして艶やかな黒い肌、灰色の瞳の少女といった外見の、あやだ。18才の誕生日にはまだ数か月あるが、あやが「Pegasus」チームのリーダーだ。
「いいじゃない、どうせ『Jupiter』チームの手伝いに駆り出されて来てるだけなんだからさ」
「うちのメンバーがヘマをしたら、責任を取らされるのは、あや、君だっていうことはわかってるのかい」
「その時は、わたしがヘマをしたやつに3倍の懲罰をくれてやるわ」
教授はやれやれといった風に口の隅で笑った。
「それに、リリィたちが普通の観光客じゃないように見えても、ターゲットは気づいていないみたいじゃない」
「そうだな。あちらも妙に緊張しすぎているのかもな」
店内の窓際のテーブルに座るひとりの男を視線の隅で捉えながらあやが言うのに教授も応える。男は辺境星域を荒らしている海賊組織の幹部として保安局にマークされている人物で、エンジェル・ウィングには別の組織の大物と接触するらしいとの情報があり、あやたちはその相手が現れるのを待っているのだ。
<こちら『Jupiter』リーダー。『Pegasus』チーム、聞こえるか>
あやの耳の奥で通信装置から声が聞こえる。
<こちら『Pegasus』リーダー。目標はまだ現れない>
<お嬢ちゃんか。情報は確かだ。しっかり見張っていてくれよ>
それだけ言うと通信は切れた。
「それにしてもなんだって直接張り込むなんてこと…監視カメラだってあるのに」
「働いてます、と上にアピールしたいか、単に我々に対する嫌がらせのどちらかだろうね」
あやのつぶやきに教授が冷めた口調で応えてテーブルの上に置いてあったペーパーバックを広げて読むふりをする。
あやはもう一度対象の男を目の隅で観察してみる。
窓から差し込む明るい日差しに白いスーツが清潔感を出している。髪は濃い茶色で短い。眉は太く固く結んだ唇は薄い。ごくありふれた中年男性に見えるが、どこか違和感があるのは普段反社会組織に身を置いているからだろうか。視線はカフェの入り口と窓の外とテーブルの上を短い感覚で行ったり来たりしていた。待ち合わせの相手が時間に遅れているといった印象だ。テーブルには汗をかいたグラスがあり、ほとんど口をつけていないようだった。
「Jupiter」チームはこの男よりも接触してくる相手に興味があるようだ。辺境星域の海賊と接触するのだから、あるいは広域に勢力を持つ組織が傘下に加えようとしているのかもしれない。としたら、保安局の狙いは広域の組織を摘発する足掛かりということか。
カフェの客は回転が速い。あやたち「Pegasus」のメンバーと対象の男以外は8割がたが入れ代わっている。いまも店の入り口は出て行く客と入ってくる客がすれ違っている。客が入ってくるたびに対象の男も注目していたが、いまだに待ち人は現れていない。
またひとり、いやふたり連れの客が入ってきた。教授と同年配の男性と若い女性だ。ラフな服装なのはこのリゾート施設のホテルに宿泊しているからだろう。空いているテーブルを探してカフェの中を歩いてきたその男性は、教授に目をとめると近づいてきて声をかけた。
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なお、表紙画像には生成AI「Dreamina」を使用しました。
Posted by YOUKIAya at 14:15│Comments(0)
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