2025年04月17日
【アニメの部屋】2025年春アニメ雑感
■2025年春アニメ雑感
早いものはすでに3話まで放送済みですが、今期は試聴が遅れてます(いやアニメ作品の数がはんぱなさ過ぎて追いきれんわ)。
・ある魔女が死ぬまで
17歳の誕生日を迎えた見習い魔女が、七賢人のひとりである師匠の魔女から一年後に死ぬ呪いにかかっていると告げられ、死を回避するために嬉し涙を1000粒集めることになる。
設定はファンタジーだがハートフルな内容の良作。

・ゴリラの神から加護された令嬢は王立騎士団で可愛がられる
16歳になると加護の式典と呼ばれる儀式でさまざまな神のひとつから加護を授けられる世界における少女の物語。
犬の神なら足が早く、鳥の神なら空が飛べるという特技を授けられるのだが、主人公はゴリラの神の加護を授けられ、腕力や身体能力が向上、王立騎士団に入ることになる。
タイトルから騎士団での生活が描かれるのかなぁと思っていたらおもに学園ラブストーリーという印象(少なくとも序盤は)。乙女ゲーム的な内容ではあるけどなかなか面白いので試聴継続。

・ボールパークでつかまえて!
野球がテーマだが舞台は特定の球場で主人公はその球場のビール売り。なかなか変化球を投げてくるわけです。
短いエピソードをつなげて面白おかしく構成しているところは『がんばれ!タブチくん』的な印象も。
頭使わずに楽しめる枠ということでこちらも試聴継続。

早いものはすでに3話まで放送済みですが、今期は試聴が遅れてます(いやアニメ作品の数がはんぱなさ過ぎて追いきれんわ)。
・ある魔女が死ぬまで
17歳の誕生日を迎えた見習い魔女が、七賢人のひとりである師匠の魔女から一年後に死ぬ呪いにかかっていると告げられ、死を回避するために嬉し涙を1000粒集めることになる。
設定はファンタジーだがハートフルな内容の良作。

・ゴリラの神から加護された令嬢は王立騎士団で可愛がられる
16歳になると加護の式典と呼ばれる儀式でさまざまな神のひとつから加護を授けられる世界における少女の物語。
犬の神なら足が早く、鳥の神なら空が飛べるという特技を授けられるのだが、主人公はゴリラの神の加護を授けられ、腕力や身体能力が向上、王立騎士団に入ることになる。
タイトルから騎士団での生活が描かれるのかなぁと思っていたらおもに学園ラブストーリーという印象(少なくとも序盤は)。乙女ゲーム的な内容ではあるけどなかなか面白いので試聴継続。

・ボールパークでつかまえて!
野球がテーマだが舞台は特定の球場で主人公はその球場のビール売り。なかなか変化球を投げてくるわけです。
短いエピソードをつなげて面白おかしく構成しているところは『がんばれ!タブチくん』的な印象も。
頭使わずに楽しめる枠ということでこちらも試聴継続。

2025年04月14日
【新刊電子書籍】絆、つながる/結城あや
絆、つながる/結城あや
https://amzn.to/44nVSS8
母親の経営するカフェを手伝う娘が出会う人々との
※本文より。
2021年、12月も半ばが過ぎてクリスマスムードが盛り上がっていたころ、友だちと買い物に出掛けていたわたしは地元の駅に戻ってくるのが少し遅くなっていた。そう、夜11時に近かったと思う。
JR総武線の新小岩駅。
南口を出て駅前の信号を渡ってアーケードの商店街「ルミエール」を抜けて行くのがいつものルートだ。商店街の手前にはロータリーがあって、その真ん中には楕円形の中州のような場所があり、交番、公衆トイレ、喫煙所、いくつかベンチが並んだ広場になっていて、駅から商店街へ通じる通路もそこにある。
普段と同じように、いや、ちょっと時間が遅くなったことで帰宅後母に小言を言われそうで少し焦った気持ちでロータリーの手前で信号待ちをしていたわたしの耳に、ジャカジャカっとギターを掻き鳴らす音、そして歌声が聞こえてきた。
ロータリーの中州の広場では年に数回、イベントが行われることもあるが、時間的にそういったものとは考えられず、なによりイベントらしき気配がない。
信号が変わり中州へ歩いて、交番の前をすぎたところで、広場の、通路から一番遠いベンチに座って弾き語りをしている男の人がいるのが見えた。
屋外だし距離もあるので個人的にはかまわないと思うのだけれど、顎マスクでかなり大きな声で歌っていることにはちょっと驚いた。
聴いたことのない曲なのはオリジナルなのか、それともわたしの知らない古い曲なのだろうか。古いと思ったのは曲調がどこかで聴いたことのある昔のフォークソングの印象があったからだ。
それにしても、新小岩でストリートライブとかする人がいるんだ、という気がした。
快速線も停まる駅ではあるけれど、大きなショッピングセンターや娯楽施設があるわけでもなく、わざわざこの駅に来るという場所ではないから駅前で弾き語るのであれば、近場なら錦糸町を選ぶだろう。それにこの時間だ。おそらく地元の人なのだろう。
弱いが北風も吹いていて立ちどまって聴くという気分にはならない。ベンチにもその人の他には人影はなく、その人の周りにも人は居ない。強いて言えば透明なアクリル版で囲まれた喫煙所に駅から出てきた何人かが入って行ってちょっとした人ごみにはなっていたけれど、その人は足早に通りすぎる人や喫煙所の人たちに向かって歌っているのだろうか。ギターケースの蓋が開いているのは投げ銭を期待しているのだろうし、聴いてほしいのだと思うけれど、季節も時間も無視した行為のように思われた。
そしてわたしも通りすがりに聴きながら、商店街へと入って行った。
大学が休みに入るとさっそく母が、自分の経営するカフェを手伝うように言ってきた。父が事故で亡くなってから開いた店だ。開店当時からわたしもできるだけ協力してきた。もっともいまでは常勤のウェイトレスもいるので、わたしがでしゃばることも少なくなってはいる。それでも夏休みなどの長期の休みの期間はほかでバイトするよりは母の店で働くことにしている。
カフェは江戸川区総合文化センターに近い、親水公園に面したマンションの一階にあって、母の作るレアチーズケーキとカレーが人気だ。
文化センターに隣り合わせた私立高校の女子高生たちもケーキを目当てに通ってくれている。
「響歌、テラスのテーブル、綺麗にしておいて」
開店準備をしていると母がカウンターの中から言う。カレーの香りが漂ってくる。響歌というのはわたしの名前だ。
店の中はカウンターとテーブル、そしてテラスにもテーブルがふたつある。寒い季節になるとテラス席を利用する人も減るが、飲食店で換気が重要視されるいまのご時世では却ってテラス席のほうが人気だったりもする。
布巾にアルコールをスプレーしてテーブルを拭いていると、店の向かいの親水公園に沿った道を歩いていた女性が目に留まった。
毎日というわけではないが、よく見かける人だ。
親水公園を散歩コースにしている人はけっこういて、見慣れた顔も多いのだけれど、この人は特に印象に残る。というのも公園に植えられている樹の前に立ちどまって、樹に話しかけたりしている姿をよく見かけるのだ。一方的に話しかけているというよりは樹と会話をしているように見える。髪は白髪も目立って中年というよりは初老のような印象も受けるのだけれど、なにかスピリチュアルな人なのだろうかと思ったりする。
今日も桜の樹の前に立ちどまってなにか話しかけている。
ニコニコと微笑みながら樹と会話しているのをなんとなく可愛いなと思いながら、テーブルを拭き終えた。
「おはようございます」
ウェイトレスのさくらさんが出勤してきた。開店まで二十分ほどだ。わたしもカウンターに入って細々とした準備を片づける。
十時の開店時間と共に現れるのは、常連の男性と決まっていた。
ダディの愛称で呼ばれているこの人は、以前はバンドやスタジオで活躍していたサックス奏者で、いまは引退していて、年に数回この店で気楽なライブをしてくれている。
「おはよう。コーヒーを頼みます」
上品な紳士という雰囲気だけど、昔を知る人の話だと若いころはステージでも派手で、女性にもモテていたという。いまでも店に若くて綺麗なお客さんがくると怪しい目つきで見ていたりする。
ほかに午前中の常連さんは、散歩の途中に休憩していく年配の男女が二、三人。それぞれコーヒーや紅茶の飲み物だけで、さくらさんがいれば問題はなく、母はカウンターの中でランチの仕込みに専念している。わたしも開店準備を手伝った後は休憩してランチタイムにお店に戻る。
エプロンを外してお店の前に出ると、さっきの初老女性がまだ樹と話していた。その横を保育園の園児たちが先生に先導されながらなにかの歌を唄いながら通っていく。なんとも微笑ましい風景で、こちらも自然と笑顔になる。園児たちが通りすぎると、初老女性は影響されたのか、樹に歌を聴かせていた。その姿がとても可愛くて、わたしはまた笑顔になった。
・・・・・・・・・・

https://amzn.to/44nVSS8
母親の経営するカフェを手伝う娘が出会う人々との
※本文より。
2021年、12月も半ばが過ぎてクリスマスムードが盛り上がっていたころ、友だちと買い物に出掛けていたわたしは地元の駅に戻ってくるのが少し遅くなっていた。そう、夜11時に近かったと思う。
JR総武線の新小岩駅。
南口を出て駅前の信号を渡ってアーケードの商店街「ルミエール」を抜けて行くのがいつものルートだ。商店街の手前にはロータリーがあって、その真ん中には楕円形の中州のような場所があり、交番、公衆トイレ、喫煙所、いくつかベンチが並んだ広場になっていて、駅から商店街へ通じる通路もそこにある。
普段と同じように、いや、ちょっと時間が遅くなったことで帰宅後母に小言を言われそうで少し焦った気持ちでロータリーの手前で信号待ちをしていたわたしの耳に、ジャカジャカっとギターを掻き鳴らす音、そして歌声が聞こえてきた。
ロータリーの中州の広場では年に数回、イベントが行われることもあるが、時間的にそういったものとは考えられず、なによりイベントらしき気配がない。
信号が変わり中州へ歩いて、交番の前をすぎたところで、広場の、通路から一番遠いベンチに座って弾き語りをしている男の人がいるのが見えた。
屋外だし距離もあるので個人的にはかまわないと思うのだけれど、顎マスクでかなり大きな声で歌っていることにはちょっと驚いた。
聴いたことのない曲なのはオリジナルなのか、それともわたしの知らない古い曲なのだろうか。古いと思ったのは曲調がどこかで聴いたことのある昔のフォークソングの印象があったからだ。
それにしても、新小岩でストリートライブとかする人がいるんだ、という気がした。
快速線も停まる駅ではあるけれど、大きなショッピングセンターや娯楽施設があるわけでもなく、わざわざこの駅に来るという場所ではないから駅前で弾き語るのであれば、近場なら錦糸町を選ぶだろう。それにこの時間だ。おそらく地元の人なのだろう。
弱いが北風も吹いていて立ちどまって聴くという気分にはならない。ベンチにもその人の他には人影はなく、その人の周りにも人は居ない。強いて言えば透明なアクリル版で囲まれた喫煙所に駅から出てきた何人かが入って行ってちょっとした人ごみにはなっていたけれど、その人は足早に通りすぎる人や喫煙所の人たちに向かって歌っているのだろうか。ギターケースの蓋が開いているのは投げ銭を期待しているのだろうし、聴いてほしいのだと思うけれど、季節も時間も無視した行為のように思われた。
そしてわたしも通りすがりに聴きながら、商店街へと入って行った。
大学が休みに入るとさっそく母が、自分の経営するカフェを手伝うように言ってきた。父が事故で亡くなってから開いた店だ。開店当時からわたしもできるだけ協力してきた。もっともいまでは常勤のウェイトレスもいるので、わたしがでしゃばることも少なくなってはいる。それでも夏休みなどの長期の休みの期間はほかでバイトするよりは母の店で働くことにしている。
カフェは江戸川区総合文化センターに近い、親水公園に面したマンションの一階にあって、母の作るレアチーズケーキとカレーが人気だ。
文化センターに隣り合わせた私立高校の女子高生たちもケーキを目当てに通ってくれている。
「響歌、テラスのテーブル、綺麗にしておいて」
開店準備をしていると母がカウンターの中から言う。カレーの香りが漂ってくる。響歌というのはわたしの名前だ。
店の中はカウンターとテーブル、そしてテラスにもテーブルがふたつある。寒い季節になるとテラス席を利用する人も減るが、飲食店で換気が重要視されるいまのご時世では却ってテラス席のほうが人気だったりもする。
布巾にアルコールをスプレーしてテーブルを拭いていると、店の向かいの親水公園に沿った道を歩いていた女性が目に留まった。
毎日というわけではないが、よく見かける人だ。
親水公園を散歩コースにしている人はけっこういて、見慣れた顔も多いのだけれど、この人は特に印象に残る。というのも公園に植えられている樹の前に立ちどまって、樹に話しかけたりしている姿をよく見かけるのだ。一方的に話しかけているというよりは樹と会話をしているように見える。髪は白髪も目立って中年というよりは初老のような印象も受けるのだけれど、なにかスピリチュアルな人なのだろうかと思ったりする。
今日も桜の樹の前に立ちどまってなにか話しかけている。
ニコニコと微笑みながら樹と会話しているのをなんとなく可愛いなと思いながら、テーブルを拭き終えた。
「おはようございます」
ウェイトレスのさくらさんが出勤してきた。開店まで二十分ほどだ。わたしもカウンターに入って細々とした準備を片づける。
十時の開店時間と共に現れるのは、常連の男性と決まっていた。
ダディの愛称で呼ばれているこの人は、以前はバンドやスタジオで活躍していたサックス奏者で、いまは引退していて、年に数回この店で気楽なライブをしてくれている。
「おはよう。コーヒーを頼みます」
上品な紳士という雰囲気だけど、昔を知る人の話だと若いころはステージでも派手で、女性にもモテていたという。いまでも店に若くて綺麗なお客さんがくると怪しい目つきで見ていたりする。
ほかに午前中の常連さんは、散歩の途中に休憩していく年配の男女が二、三人。それぞれコーヒーや紅茶の飲み物だけで、さくらさんがいれば問題はなく、母はカウンターの中でランチの仕込みに専念している。わたしも開店準備を手伝った後は休憩してランチタイムにお店に戻る。
エプロンを外してお店の前に出ると、さっきの初老女性がまだ樹と話していた。その横を保育園の園児たちが先生に先導されながらなにかの歌を唄いながら通っていく。なんとも微笑ましい風景で、こちらも自然と笑顔になる。園児たちが通りすぎると、初老女性は影響されたのか、樹に歌を聴かせていた。その姿がとても可愛くて、わたしはまた笑顔になった。
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2025年04月13日
【新刊電子書籍】WISH…/エマージェンシー・アタッカー・シリーズ
WISH…/エマージェンシー・アタッカー・シリーズ
https://amzn.to/44nfDJD
新刊電子書籍発売中。

SFライトノヴェル。
宇宙連邦の公安・警備部隊であるアタッカーの、少女をリーダーとした1チームの活躍を描いたものです。
※本文より。
漆黒の闇が支配する宇宙。
その闇の中に宝石をちりばめたように星々が輝いている。
それはそれで美しい光景だが、もし人類が生まれ進化した母星の環境の中ではなく、宇宙空間で進化していたのなら、さまざまな宇宙線をその目で捉え、漆黒の闇もまばゆい光に満ちた世界として認識していたかもしれない。
大昔の作家がその作品の中でそんなことを書いていたそうだ。当時はロマンティックな想像として受け取られていたのだろう。まだ人類が宇宙にその生活圏を広げる前の話だ。
惑星ブリアールは植民・開発が始まってから六十年を超えていたが特に目立った資源や特産物があるというわけでもなく、地味な星だった。しかし衛星軌道上に造られた宇宙港は巨大でさまざまな星域への中継地点として機能しているのと商業施設、リゾート施設が充実していることから宇宙連邦全域で知られていた。
その宇宙港は大きく左右に分かれる形をしており、ブリアールという惑星が翼を着けているように見えることから「エンジェル・ウィング」と名付けられている。
リゾートエリアには各地からの観光客や乗り継ぎの合間を楽しむ人々で賑わっていた。もっともそこには休暇を楽しむ目的ではなく、仕事で訪れている場合もある。もちろんリゾート施設の従業員ということではなく、そこでしなければならない仕事ができてしまったケースだ。銀河連邦保安部に所属する強攻チーム、俗に「アタッカー」と呼ばれるメンバーも、いま仕事のためにこのリゾート施設に居た。
「アタッカー」は5~7人程度のメンバーで編成されたチームが各星域を担当しているが、時には複数のチームが合同で活動することもある。エンジェル・ウィングのような宇宙港は特にさまざまな星域との連携が必要でもあった。チームとしてはもっとも新しく編成された「Pegasus」のメンバー5人も、リゾート施設のカフェに配置されていた。
「仕事じゃなければゆっくり楽しめたのにねえ」
ブロンドの髪を揺らしながらリリィが愚痴るように言った。それでも青い瞳はカフェの店中を油断なく見ている。
リリィと同じテーブルについて同じように店内を警戒しているのは「Pegasus」の敏腕パイロットであるウルフだが、その視線はサングラスで見えない。スキンヘッドでもあり危険な印象を与えるが口を開くとひょうきんな性格だ。
「せめて任務が終わったあとに1日でも休暇が取れたらね。生憎、仕事は山積みだ」
「せっかく人気のリゾート地に来てるっていうのに…」
リリィがまたぼやく。それに無言で頷くのはやはり同じテーブルに居たタイガだ。ダークブラウンの髪を短く刈り込んだウルフよりもひと回り身体の大きい体育会系の外見だが、細かい作業が得意な器用さがある。
服装は3人ともTPOに合せたものだが、周囲のテーブルの客に比べるとどこか緊張がにじみ出ていて浮いて見えるのは否めない。
「あれじゃ張り込んでるのがバレバレだな」
少し離れたテーブルでコーヒーを口にしながら呟くように言ったのはチームの副リーダーの教授だ。前職が大学で教鞭を取っていたことからこのニックネームで呼ばれている。年齢も20歳代のリリィたち3人と比べてひと回りほど上である。細い金属フレームの眼鏡をかけているが、近視や老眼といったものは医学的に克服されていて、一般的に眼鏡はファッションとして浸透している。
教授の向かい側に座ってテーブルに両肘をつき、顎を手で支えながらつまらなそうな顔をしているのは、腰に届く銀色のストレートの髪、整った顔だち、人類がまだ宇宙に進出する前ならアジア系と呼ばれただろう。そして艶やかな黒い肌、灰色の瞳の少女といった外見の、あやだ。18才の誕生日にはまだ数か月あるが、あやが「Pegasus」チームのリーダーだ。
「いいじゃない、どうせ『Jupiter』チームの手伝いに駆り出されて来てるだけなんだからさ」
「うちのメンバーがヘマをしたら、責任を取らされるのは、あや、君だっていうことはわかってるのかい」
「その時は、わたしがヘマをしたやつに3倍の懲罰をくれてやるわ」
教授はやれやれといった風に口の隅で笑った。
「それに、リリィたちが普通の観光客じゃないように見えても、ターゲットは気づいていないみたいじゃない」
「そうだな。あちらも妙に緊張しすぎているのかもな」
店内の窓際のテーブルに座るひとりの男を視線の隅で捉えながらあやが言うのに教授も応える。男は辺境星域を荒らしている海賊組織の幹部として保安局にマークされている人物で、エンジェル・ウィングには別の組織の大物と接触するらしいとの情報があり、あやたちはその相手が現れるのを待っているのだ。
<こちら『Jupiter』リーダー。『Pegasus』チーム、聞こえるか>
あやの耳の奥で通信装置から声が聞こえる。
<こちら『Pegasus』リーダー。目標はまだ現れない>
<お嬢ちゃんか。情報は確かだ。しっかり見張っていてくれよ>
それだけ言うと通信は切れた。
「それにしてもなんだって直接張り込むなんてこと…監視カメラだってあるのに」
「働いてます、と上にアピールしたいか、単に我々に対する嫌がらせのどちらかだろうね」
あやのつぶやきに教授が冷めた口調で応えてテーブルの上に置いてあったペーパーバックを広げて読むふりをする。
あやはもう一度対象の男を目の隅で観察してみる。
窓から差し込む明るい日差しに白いスーツが清潔感を出している。髪は濃い茶色で短い。眉は太く固く結んだ唇は薄い。ごくありふれた中年男性に見えるが、どこか違和感があるのは普段反社会組織に身を置いているからだろうか。視線はカフェの入り口と窓の外とテーブルの上を短い感覚で行ったり来たりしていた。待ち合わせの相手が時間に遅れているといった印象だ。テーブルには汗をかいたグラスがあり、ほとんど口をつけていないようだった。
「Jupiter」チームはこの男よりも接触してくる相手に興味があるようだ。辺境星域の海賊と接触するのだから、あるいは広域に勢力を持つ組織が傘下に加えようとしているのかもしれない。としたら、保安局の狙いは広域の組織を摘発する足掛かりということか。
カフェの客は回転が速い。あやたち「Pegasus」のメンバーと対象の男以外は8割がたが入れ代わっている。いまも店の入り口は出て行く客と入ってくる客がすれ違っている。客が入ってくるたびに対象の男も注目していたが、いまだに待ち人は現れていない。
またひとり、いやふたり連れの客が入ってきた。教授と同年配の男性と若い女性だ。ラフな服装なのはこのリゾート施設のホテルに宿泊しているからだろう。空いているテーブルを探してカフェの中を歩いてきたその男性は、教授に目をとめると近づいてきて声をかけた。
・・・・・・・・・・
なお、表紙画像には生成AI「Dreamina」を使用しました。
https://amzn.to/44nfDJD
新刊電子書籍発売中。

SFライトノヴェル。
宇宙連邦の公安・警備部隊であるアタッカーの、少女をリーダーとした1チームの活躍を描いたものです。
※本文より。
漆黒の闇が支配する宇宙。
その闇の中に宝石をちりばめたように星々が輝いている。
それはそれで美しい光景だが、もし人類が生まれ進化した母星の環境の中ではなく、宇宙空間で進化していたのなら、さまざまな宇宙線をその目で捉え、漆黒の闇もまばゆい光に満ちた世界として認識していたかもしれない。
大昔の作家がその作品の中でそんなことを書いていたそうだ。当時はロマンティックな想像として受け取られていたのだろう。まだ人類が宇宙にその生活圏を広げる前の話だ。
惑星ブリアールは植民・開発が始まってから六十年を超えていたが特に目立った資源や特産物があるというわけでもなく、地味な星だった。しかし衛星軌道上に造られた宇宙港は巨大でさまざまな星域への中継地点として機能しているのと商業施設、リゾート施設が充実していることから宇宙連邦全域で知られていた。
その宇宙港は大きく左右に分かれる形をしており、ブリアールという惑星が翼を着けているように見えることから「エンジェル・ウィング」と名付けられている。
リゾートエリアには各地からの観光客や乗り継ぎの合間を楽しむ人々で賑わっていた。もっともそこには休暇を楽しむ目的ではなく、仕事で訪れている場合もある。もちろんリゾート施設の従業員ということではなく、そこでしなければならない仕事ができてしまったケースだ。銀河連邦保安部に所属する強攻チーム、俗に「アタッカー」と呼ばれるメンバーも、いま仕事のためにこのリゾート施設に居た。
「アタッカー」は5~7人程度のメンバーで編成されたチームが各星域を担当しているが、時には複数のチームが合同で活動することもある。エンジェル・ウィングのような宇宙港は特にさまざまな星域との連携が必要でもあった。チームとしてはもっとも新しく編成された「Pegasus」のメンバー5人も、リゾート施設のカフェに配置されていた。
「仕事じゃなければゆっくり楽しめたのにねえ」
ブロンドの髪を揺らしながらリリィが愚痴るように言った。それでも青い瞳はカフェの店中を油断なく見ている。
リリィと同じテーブルについて同じように店内を警戒しているのは「Pegasus」の敏腕パイロットであるウルフだが、その視線はサングラスで見えない。スキンヘッドでもあり危険な印象を与えるが口を開くとひょうきんな性格だ。
「せめて任務が終わったあとに1日でも休暇が取れたらね。生憎、仕事は山積みだ」
「せっかく人気のリゾート地に来てるっていうのに…」
リリィがまたぼやく。それに無言で頷くのはやはり同じテーブルに居たタイガだ。ダークブラウンの髪を短く刈り込んだウルフよりもひと回り身体の大きい体育会系の外見だが、細かい作業が得意な器用さがある。
服装は3人ともTPOに合せたものだが、周囲のテーブルの客に比べるとどこか緊張がにじみ出ていて浮いて見えるのは否めない。
「あれじゃ張り込んでるのがバレバレだな」
少し離れたテーブルでコーヒーを口にしながら呟くように言ったのはチームの副リーダーの教授だ。前職が大学で教鞭を取っていたことからこのニックネームで呼ばれている。年齢も20歳代のリリィたち3人と比べてひと回りほど上である。細い金属フレームの眼鏡をかけているが、近視や老眼といったものは医学的に克服されていて、一般的に眼鏡はファッションとして浸透している。
教授の向かい側に座ってテーブルに両肘をつき、顎を手で支えながらつまらなそうな顔をしているのは、腰に届く銀色のストレートの髪、整った顔だち、人類がまだ宇宙に進出する前ならアジア系と呼ばれただろう。そして艶やかな黒い肌、灰色の瞳の少女といった外見の、あやだ。18才の誕生日にはまだ数か月あるが、あやが「Pegasus」チームのリーダーだ。
「いいじゃない、どうせ『Jupiter』チームの手伝いに駆り出されて来てるだけなんだからさ」
「うちのメンバーがヘマをしたら、責任を取らされるのは、あや、君だっていうことはわかってるのかい」
「その時は、わたしがヘマをしたやつに3倍の懲罰をくれてやるわ」
教授はやれやれといった風に口の隅で笑った。
「それに、リリィたちが普通の観光客じゃないように見えても、ターゲットは気づいていないみたいじゃない」
「そうだな。あちらも妙に緊張しすぎているのかもな」
店内の窓際のテーブルに座るひとりの男を視線の隅で捉えながらあやが言うのに教授も応える。男は辺境星域を荒らしている海賊組織の幹部として保安局にマークされている人物で、エンジェル・ウィングには別の組織の大物と接触するらしいとの情報があり、あやたちはその相手が現れるのを待っているのだ。
<こちら『Jupiter』リーダー。『Pegasus』チーム、聞こえるか>
あやの耳の奥で通信装置から声が聞こえる。
<こちら『Pegasus』リーダー。目標はまだ現れない>
<お嬢ちゃんか。情報は確かだ。しっかり見張っていてくれよ>
それだけ言うと通信は切れた。
「それにしてもなんだって直接張り込むなんてこと…監視カメラだってあるのに」
「働いてます、と上にアピールしたいか、単に我々に対する嫌がらせのどちらかだろうね」
あやのつぶやきに教授が冷めた口調で応えてテーブルの上に置いてあったペーパーバックを広げて読むふりをする。
あやはもう一度対象の男を目の隅で観察してみる。
窓から差し込む明るい日差しに白いスーツが清潔感を出している。髪は濃い茶色で短い。眉は太く固く結んだ唇は薄い。ごくありふれた中年男性に見えるが、どこか違和感があるのは普段反社会組織に身を置いているからだろうか。視線はカフェの入り口と窓の外とテーブルの上を短い感覚で行ったり来たりしていた。待ち合わせの相手が時間に遅れているといった印象だ。テーブルには汗をかいたグラスがあり、ほとんど口をつけていないようだった。
「Jupiter」チームはこの男よりも接触してくる相手に興味があるようだ。辺境星域の海賊と接触するのだから、あるいは広域に勢力を持つ組織が傘下に加えようとしているのかもしれない。としたら、保安局の狙いは広域の組織を摘発する足掛かりということか。
カフェの客は回転が速い。あやたち「Pegasus」のメンバーと対象の男以外は8割がたが入れ代わっている。いまも店の入り口は出て行く客と入ってくる客がすれ違っている。客が入ってくるたびに対象の男も注目していたが、いまだに待ち人は現れていない。
またひとり、いやふたり連れの客が入ってきた。教授と同年配の男性と若い女性だ。ラフな服装なのはこのリゾート施設のホテルに宿泊しているからだろう。空いているテーブルを探してカフェの中を歩いてきたその男性は、教授に目をとめると近づいてきて声をかけた。
・・・・・・・・・・
なお、表紙画像には生成AI「Dreamina」を使用しました。